プログラムについて

プログラム代表メッセージ

現在すでに実現している数十量子ビット規模、もしくは5〜10年で実現すると予想される数百〜数千量子ビット規模の量子コンピュータ、いわゆるNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum computer)を利用し、社会的に重要な課題へと応用するための道筋をつけることを目標としています。このため、従来の古典コンピュータの延長上になく量子コンピュータの優位性がある領域を特定し、それらを社会的に重要な課題や学術的に価値のある課題へとつなげる、物性物理学・量子化学計算・機械学習・金融などの分野へと応用することを目指します。この中で得られる知見は、NISQだけではなく、誤り耐性量子コンピュータへのシームレスな発展や、量子コンピュータの社会実装に大きく貢献すると期待しています。

研究代表者 藤井 啓祐
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(QIQB) 副センター長
大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

プログラム概要

2014年以降、産官学を巻き込んだ量子コンピュータ開発・応用が活発化し、量子ビット数が順調に増加。スパコンでもシミュレーションが厳しくなるレベルに到達(量子超越)してきました。大規模な誤り耐性量子コンピュータの実現には、20年以上の研究開発が必須となります。この息の長い研究開発をシームレスに継続するためにも、NISQの活用が喫緊の課題となっています。

本研究開発プロジェクトでは、機能や性能が制限された量子コンピュータがもつ優位性を理論的に明らかにし、その上でこのような優位性を利用することによって、古典コンピュータでは計算が困難である課題の解決や、量子特有の機能を有する活用方法を見出すことを目標としています。
応用課題についても、重要な課題においては高度な従来手法がすでに存在することを鑑み、物性物理学・量子化学計算・機械学習・金融などの分野の専門家との協働体制をとり、古典コンピュータでは困難な課題を特定することによって量子コンピュータが取り組むべき課題に先鞭をつけます。特に機械学習についてはすでに簡単に利用できるライブラリがあり精度の高い結果が得られることは周知の事実です。それを踏まえ、NISQデバイスの段階で量子機械学習の優位性があるような応用を、量子センシングや量子通信など量子コンピュータ以外の量子技術分野とも連携して開拓していきます。

また応用研究を進めるにあたっては、5〜10年後に実現が予測される規模や性能の量子コンピュータを想定し、それを想定したシミュレーターを用いることで実機の開発動向に影響を受けずにソフトウェアの研究開発を行います。それと同時に、現在すでに利用できる量子コンピュータを活用しつつ、ハードウェアからミドルウェア、そしてソフトウェアに至るレイヤーをまたがった最適化、実機の性能を引き出すためのパルス最適化やノイズ補正のためのソフトウェア研究開発および実証も進めます。
以上のような、量子計算理論による優位性の確立、実機の性能を引き出す量子コンピュータのソフトウェア設計・制御法構築、機械学習や物性・化学計算などへの応用開拓、が有機的に連携して研究開発を進める考え方を、知的量子設計(intelligent quantum system design)とし、知的量子設計による量子ソフトウェア開発とその応用を進めていきます。